実務経験を活かし未来のマーケターを育てる
企業で培ったマーケティングノウハウと大学で培った科学的アプローチの融合
私は2020年まで本田技研工業(Honda)に在籍しており、商品企画、デザイン、ブランドマネジメントなどを担当しておりました。産業界にいた際に感じていた問題意識は、日本における企業・官公庁・大学の距離の遠さでした。欧米の先進的なプロジェクトでは、産学官が一体となって新たな商品やサービス、そして仕組みをスピーディに世に生み出しているのに対し、日本ではそのような動きが乏しく、残念ながら遅れをとっています。
数年前に明治大学へ転籍してからは、企業の商品・サービス開発や、官公庁の制作立案・実行のプロジェクトに従事しています。事例としては、フェアトレード・ジャパン様、NEC様とエシカル※1コーヒーのコンセプト開発を行ったことが挙げられます。
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「フェアトレード※2」という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。これは、開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することにより、立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す「貿易のしくみ」のことですが、貧困問題を前面に押し出した訴求では、消費者はなかなかお財布の紐を緩めてくれません。
人間ですから、自身の判断基準で価格を比較し、そして購入することは自然の行動ですので、それを責めるのではなく、前提条件に捉える必要があります。人権と環境に配慮しているエシカルコーヒーの特徴を、価値を伝えるコンセプトとして構築すると、
「優れた労働環境で職人が手入れをしているから高品質なコーヒー豆」
「良い水・土をふんだんに使用しているから高品質なコーヒー豆」
となり、消費者にもその価値が伝わりやすくなります[1](出展情報は記事の最後に掲載しています)。
他にも、高知県様との社会人向け学び直し講座(土佐MBA)の企画・開発・運営[2]、クロスマーケティング様との科学的調査サービスの研究・開発[3][4]などに従事してまいりました。
※1:エシカルとは英語で、直訳すると「倫理的な」という意味です。一般的には、「法的な縛りはないけれども、多くの人たちが正しいと思うことで、人間が本来持つ良心から発生した社会的な規範」であると言えます。引用:一般社団法人エシカル協会
※2:「フェアトレード」:直訳すれば「公平な貿易」。現在のグローバルな国際貿易の仕組みは、経済的にも社会的にも弱い立場の開発途上国の人々にとって、時に「アンフェア」で貧困を拡大させるものだという問題意識から、南北の経済格差を解消する「オルタナティブトレード:もう一つの貿易の形」としてフェアトレード運動が始まりました。引用:フェアトレード・ジャパン
「消費者からマーケターへ」を掲げるゼミでのマーケティングの実践
企業様・行政様とのプロジェクト活動と同時に、ゼミでは「消費者からマーケターへ」という目的を掲げ、学生のうちから研究とビジネスの両面でマーケティングの実践をしています。
研究としては、各学生の志望業界の商品・サービスの問題点を発見し、その価値を高める仮説を立案し、科学的に実証します。例えば、電気自動車を対象にした研究では、商品本体に注目が偏りがちなデザインにおいて、備品に着眼し、充電スタンドのデザインが商品魅力に影響を与えることを実証しました。
電気自動車における充電スタンドのデザインが商品魅力に与える影響
また、化粧品を対象とした研究では、モデルの笑顔が高級なイメージを損なう問題に対して、欧米人モデルを起用することで解決できることを報告しました。
化粧品におけるモデルの笑顔が与える商品イメージの研究
柔軟剤広告を対象とした研究では、香りのような私益の側面では過剰表現は魅力を損ねるが、エシカルのような公益では過剰な訴求も受容されることを示しました。
柔軟剤広告における私益(香り)と公益(エシカル)の過剰表現の研究
これらの研究は、日本マーケティング学会[5]、日本デザイン学会[6]、日本感性工学会[7]、経営情報学会[8]のカンファレンスで学生が成果を報告してきました。様々な分野における研究結果として、2023年に日本マーケティング学会のベストオーラルペーパー賞を受賞しています[9]。なお、論文は各学会から一般公開されています(例[10])ので、ご興味のある方はぜひご一読ください。
日本マーケティング学会カンファレンス2023での発表の様子
日本マーケティング学会カンファレンス2023での授賞式の様子
出版されてきた論文の例
ビジネスとしては、阿豆佐味天神社のポスター企画・制作[11]、化粧品会社での公式SNSアカウントの企画・動画制作・運用、高知県主催の土佐MBAでの学生の講演とファシリテーション[12]、明治大学付属明治高等学校での学生によるマーケティング講義[13]などを実践し、学生にとってもよい経験を積んでいます。
阿豆佐味天神社のポスター企画・制作
高知県主催の土佐MBAでの様子
明治大学付属明治高等学校での学生によるマーケティング講義の様子
このように、研究とビジネスの両面で、学生が主体的に企画し、自らがリーダーシップを発揮しながら周囲の方々を巻き込み、価値を創出・提供することを目指して活動してきました。微力ながら、明治大学のマーケティング領域での人材輩出・成果創出に寄与できればと考えております。
明治大学グッズの企画・販売プロジェクトで大学No.1への挑戦
そして、この度、明治大学グッズの商品/販売の企画の機会を頂戴しました。大学グッズは、食料品、文房具、ファッションと多岐に渡り、愛校心をお持ちいただいている卒業生の皆様だけでなく、イベントやプロジェクトで来訪される企業や行政の皆様、そして在校生とそのご家族など、多くの方々にご愛顧いただいています。
明治大学は他の大学に先駆けてオリジナルグッズの開発・販売を行ってきたそうですが、最近は他の大学の追随が激しく、大学No.1の座を自負することができない状況に追い込まれていると明大サポート様より伺いました。
しかし、明治大学は日本トップクラスのブランド力と卒業生のネットワークを有しているため、大学No.1を狙うことは十分可能であると考えています。そのために、現在のゼミ生が、校友会様や明大サポート様と連携し、今回のプロジェクトに取り組んでいます。周囲のご協力を頂きながら、卒業生の皆様にも喜んで頂ける商品と販売サイトの企画が出来ればと考えております。
学生が力を入れて取り組むこのプロジェクトには、卒業生の皆様の力が欠かせません。ぜひの皆様の応援をお願いいたします。
プロフィール
加藤 拓巳
明治大学 商学部 専任講師 / 博士(経営学)
慶應義塾大学 理工学部 管理工学科、 筑波大学ビジネス科学研究科修士課程、同博士課程修了。
三菱電機株式会社、本田技研工業株式会社(Honda) チーフ・アナリスト、埼玉大学 経済経営系大学院 専任講師を経て2022年より現職。
実務では、商品企画とブランドマネジメントに従事し、Hondaでは、NBOX、 ACCORD、 VEZEL、 STEPWGNなどを担当。
味の素株式会社、株式会社クロス・マーケティング、 CCCMKホールディングス株式会社、 高知県、日本電気株式会社 アドバイザー。
SN Business & Economics (Springer)、Humanities & Social Sciences (Nature)の編集委員、 経営情報学会の理事を務める。
日本マーケティング学会 ジャーナル奨励賞(2020)・ベストオーラルペーパー賞(2020、2021、 2023)、 日本感性工学会 優秀発表賞(2023)、 経営情報学会 優秀萌芽研究賞 (2022)、日本デザイン学会 グッドプレゼンテーション賞(2022)、 人工知能学会 研究会優秀賞(2019)、ICIM Best Paper Award (2024)、IIAI Honorable Mention Award (2021)、KES IDT Best Paper Award (2021)等を受賞。詳細は[14]をご参照ください。
出 典
[1] https://www.fairtrade-jp.org/news-detail.php?id=200
[2] https://www.meiji.ac.jp/koho/press/2023/mkmht00000065ieg.html
[3] https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP667318_S4A120C2000000/
[4] https://www.cross-m.co.jp/original_method/kagami/
[5] https://meiji-commerce.jp/2023/11/04/2023-3.html
[6] https://meiji-commerce.jp/2024/06/24/post-328.html
[7] https://meiji-commerce.jp/2023/11/22/25.html
[8] https://meiji-commerce.jp/2023/11/13/-2023.html
[9] https://www.meiji.ac.jp/shogaku/topics/2023/mkmht000000qmqsr.html
[10] https://doi.org/10.7222/marketingreview.2024.003
[11] https://meiji-commerce.jp/2023/10/04/post-303.html
[12] https://meiji-commerce.jp/2023/07/19/mba-1.html