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消防士から女子野球への挑戦は続く!

在校生の活躍

消防士から女子野球への挑戦は続く!

みなさんこんにちは。藤﨑 匠生です。農学部食料環境政策学科で学びながら女子硬式野球クラブの監督を務めています。社会人を経験したのちに明治大学へ入学しました。今回は現在に至るまでの道のりと、女子硬式野球クラブについて紹介させていただきたいと思います。

5年間の消防士人生

高知県で生まれ育った私は、幼いころから消防士になりたいという夢を抱いていました。きっかけは、小学校低学年の頃に父がバイク事故で他界したことです。自動車や二輪の事故でケガを負うだけでなく、死亡事故につながるケースは後を絶ちませんが、身近で起こったこの体験を通じて「消防士になって、人の命を救いたい」という想いが私の心に芽生え、それまでぼんやりと描いてものが明確になったのです。

時は過ぎて高校卒業後のことです。いよいよ夢を叶えるために公務員学校へ通い、19歳の春には念願の消防士になることができました。主に救急隊として勤務する中、夢や映画、ドラマとは全く違う現実に直面しながら、過酷な現場を数多く経験しました。消防士になったのは、「人の命を救いたい」という思いからでしたが、5年間の勤務で実際に命を救うことができた場面は、片手で数えられるくらいだったかもしれません。

それでも、現場で一縷の望みをかけて命を繋いでいる中、家族が駆け付け、何とか言葉を交わすことができた時、病院から病院へ転院搬送したときなど、お礼の言葉をかけてもらうことがありました。現場や取り巻く環境は常に異なりますが、自分が持つ専門知識と想像力を使い、自分に負けない力を身に付けたことが私の消防士人生といえるかもしれません。

人生の転機となった女子の甲子園

消防士として働きながら、母校である高知中央高校の女子硬式野球部外部コーチも務めていました。創部3年目の夏のことです。第25回高校女子野球全国大会の決勝戦が初めて甲子園で行われることになりました。この大会まで全国の舞台で一度も勝利を収めたことのないチームが甲子園の舞台に立つことになるとは、選手や監督以外に誰も予想していなかったと思います。

全国大会で初めて勝利し、その勢いで優勝候補と言われるチームを次々と破り、ついにたどり着いたのが、「史上初となる女子の甲子園」である決勝戦。スタンドから彼女たちのプレーを見たとき、言葉では言い表せないほど感動し、この経験は、「お金では買えない価値」だと感じたことを今でも昨日のように思い出します。

近年、高校女子野球チームは60校以上も存在し、環境が整備されつつありますが、大学や社会人の女子野球チームはまだまだ少なく、野球を続けるには十分な環境とは言えません。「この子たちに高校卒業後も野球を続けさせてあげたい。そして、もっと多くの人々に女子野球の素晴らしさを伝えたい」と強い想いが芽生え、自分に何ができるのかを考え始めました。

結果、日本野球の原点である東京六大学に史上初の女子硬式野球チームを作ることで、女子野球の認知が拡がり、発展につながるのではないかと考え、大学進学を決意したのです。

差し出したものの大きさによって覚悟は決まる

「消防士を辞めて、明治大学で女子硬式野球チームを立ち上げる」という大胆な夢に、当然ながら周囲の多くの人が反対しました。しかし、ようやく叶えた夢である消防士を辞めてでも挑戦したいことに出会えたこと、覚悟や信念を持っていることを伝えました。今では家族や周りの方々が全力で応援してくれます。

入学前の3月からあらゆるSNSを活用して200人以上の学生に勧誘のメッセージを送り、20名近くの学生を集め、2022年にチームを創設することができました。しかし、その半数以上が野球未経験だったため、不安が大きかったのは事実です。

しかし、学生たちからは「今まで女子が野球できる環境が身近になくて、やりたくてもできなかった」「父親と一緒にグローブを買いに行き、そのまま公園で日が暮れるまでキャッチボールをした」という声を聞いて、彼女たちの人生に女子野球が刻まれたことが嬉しく、徐々に不安は解消されていきました。

チームを立ち上げた当初、中学2年生の女子生徒から連絡がありました。「高校進学で野球を辞めるつもりでしたが、将来的には明治大学で学びながら野球も続けたいと思うようになりました。」

彼女はこの春、明治大学附属八王子高校に進学しました。彼女の決断に喜びを感じると同時に、一人の人生を変えることになった責任も感じました。これからも、彼女たちのためにできることを精一杯頑張っていきたいと思います。女子甲子園の舞台に立ったあの日以来、彼女たちから学んだ「お金では買えない価値」を作り出すことが、私の人生の最大の目的になりました。

現在、明治大学女子硬式野球クラブは月曜日、水曜日、金曜日に、生田キャンパスの東グラウンドで練習しています。授業や他のキャンパスからの移動の都合で、練習には4〜5人しか集まれないこともありますが、試行錯誤を繰り返しながら練習に取り組んでいます。また、明治大学硬式野球部出身でプロ野球やメジャーリーグで活躍された川上憲伸さんからの投球指導を受けるなど、明治大学OBの協力も得ながら、私たちは日々レベルアップを続けています。(指導の様子 https://www.youtube.com/watch?v=F6pteyv7gyU )

昨年の8月から関西学院大学との定期戦がスタートしました。結果は敗れてしまいましたが、野球未経験者が多い中で最後まで戦い抜き、試合を成立させた選手の姿に感無量でした。また、女子野球の歴史に新たな1ページを刻むことができたと思います。今年の定期戦は11月に東京都で開催予定です。その際に大きな声援で応援いただけたら大変嬉しいです。

農業の「隠れた価値」

現在(24年3月時点)農学部食料環境政策学科に在籍しています。昨年の10月、新潟県小千谷市でファームステイ実習に参加しました。その際、夕焼け景色の中で、田んぼの稲の上を飛び交う赤とんぼの群れを見て、これも農業が生み出すお金では買えない価値の1つだと感じました。

学びの中で、農業が生み出すものの中には、環境や景観、信頼など、お金では買えない価値がたくさんあることに気づきました。これによって、今までとは違った価値観で農業を見ることができるようになり、より当事者意識を持って勉学に取り組むことができるようになりました。今後は農業マネジメント論研究室に所属し、農業における金銭的価値以外の価値について研究したいと考えています。

少し話は変わりますが、以前、授業において、明治大学の理念の1つである「個を強くする大学」の「個」について考える機会がありました。目指すべきは、自分だけが強くなることではなく、周囲に貢献できる個性や能力を持つことであり、そして、自分と周囲を切り離して考えるのではなく、「周囲がいるからこそ活きる個性」の在り方について学ぶことができました。

最後に

消防士としての現場での経験、女子野球を通じて得たもの、そして農業に触れたことで感じたことは、一見何の関係もないように見えますが、こうして振り返ってみると、予想もしなかったつながりを感じます。入学して2年が経ちましたが、先生方や職員の皆様、そして校友会など、たくさんの方々に支えられて今があることを考えると、感謝の気持ちでいっぱいです。東京六大学初の女子硬式野球チームはこれからも前進し続けますので、ぜひ皆様の応援をよろしくお願いします。

農学部食料環境政策学科
藤﨑 匠生